
松本徹三(Tetsuzo MaTsumoto)-電波埋蔵金を求めて
電波埋蔵金を求めて
「ここ何年かのうちに情報通信サービスは飛躍的な高度化を遂げるだろう」ということが多くの人達に信じられていますが、それには、「高速データ通信ネットワークが急速に整備されるだろう」という見通しが前提となっています。
通信ネットワークは有線方式によるものと無線方式によるものとに分かれますが、有線技術については、最先端の光通信システムは既に人間が使いこなせる限界点に近い高速サービスの実現を約束しており、問題は、今や、「光ファイバーを何時までにどこまで張り巡らせることが出来るか」と、「コスト」に集約されています。
しかし、無線技術の方は、まだまだ多くの複雑な課題を抱えています。
無線技術は、電磁波という物理現象を利用して信号を伝播させる技術ですが、電磁波の持つ物理的特性から、実際に通信目的で利用できる周波数は極めて限られています。また、これも電磁波というものの持つ物理的特性から、一定の周波数が伝播できる情報量(一秒当たりの伝送ビット数)には限界があることも、シャノンの法則としてよく知られています。
それ故に、無線技術は常に「電波の希少性」という問題との戦いであり、また、有線方式のように多量の情報量を野放図に処理するということは何れにせよ不可能ですから、常に爪に火をともすようにして、その利用方法を工夫していかなければなりません。
有線方式の場合は、仮にある人がある相手と、一本の銅線(または光ファイバー)で排他的につながれたとしたら、その線の中では何が起こっていても構わない訳ですし、LANのように一本の路線を複数の利用者が共用する場合でも、そもそもその伝送能力が半端ではないので、比較的おおらかに全てを考えることが出来ます。
しかし、無線方式の場合は、元々一括りにされた一定の周波数帯が伝送できる情報量が限られている上に、無線が飛び交っている空間の中に多くの人がいるのが普通ですから、みんなが勝手に電波を出せば全てが無茶苦茶になってしまいます。それ故、無線方式の通信というものは、一時的には国家が管理し、更には、国際的な協定によって、世界レベルでも管理されなければならない訳です。
日本でこの管理の責任を負っているのは、かつての郵政省、現在の総務省ですが、その責任は実に重大です。大きな利用価値をもった周波数というものは、一つの「資産」であり、この「資産」は、国(主権在民の体制化では国民)に帰属します。総務省は、国民の付託を受けて、この管理責任を負っている訳です。
かつては、電波の希少性ということについても、それ程切迫感があったわけではありませんから、その利用免許はかなりおおらかに与えられてきた観があります。また、「ブロードバンド」のニーズということも殆ど意識されていなかった為、周波数をかなり細かくぶつ切りにして免許が与えられています。このような状態が永久にそのままで良いと考える人はあまりいないでしょうから、早晩何らかの大手術が行われなければならないのは確かでしょうが、その前段階として、現在この「国民の希少な共有資産」である電波が現実にどのように利用されているかについて、先ずは国民が等しく情報を共有することが必要であると思います。
現在現実に電波がどのように使われているかについては、私の知る限りでは、まとまって公表されている資料はありません。電波を扱う人達の間でバイブルになっている分厚い青表紙の出版物があるのですが、これは総務省から出されたものではなく、民間の有志グループが推測を交えてまとめた非公式な資料だときいています。
私は3年前に、アメリカで生まれたMediaFLOというモバイル放送技術を日本に導入することが出来ないかと考え、総務省に相談にいったところ、「周波数がないのでどうにもならない」と言われました。しかし、そう言われても簡単には諦められず、それから1-2年の間は、前述の青表紙の資料も穴のあくほど読んで、色々な方策を考えてきたのですが、現時点ではほぼ諦めの心境で、「結局は2011年に予定されているアナログ停波まで待つしかないのだろうなあ」と考えるに至っています。
そうなると、MediaLFOの先進性も色褪せてしまい、最早あまり意欲は掻き立てられません。
モバイル放送サービスは、携帯端末からは何も電波を発信するものではなく、一方送信側の周波数を変えること自体は比較的簡単ですから、「あらかじめ複数の周波数に対応するシステムを考えておき、その時に空いている周波数を漸次使いまわしていけばよいのではないか? それなら、現在と将来の周波数の使われ方をしらみつぶしに調べ上げていけば、どこかに期間限定で使える周波数は必ずあるはずだ」と考えたことが、今にして思えばやはり甘かったと言わざるを得ません。
しかし、この経験から知り得たことは、現実に周波数は驚くほど多岐多様に使われていること、その使われ方の現状は、技術面から言っても、割り当てられ方から言っても、決して効率的とは言えないこと、全国的にみれば、ある地域にだけ使われていて、他の地域では全く使われていないケースも多々あること、等々でした。
と言うことは、仮に今、全てを白地に戻すことが出来、最新の技術をそこに導入することが出来るとすれば、周波数の利用効率は飛躍的に上がり、もしかしたら、「周波数は日本中でジャブジャブに余っている」という状況になることさえあり得ると思うのです。
周波数は本当に足りないのでしょうか? それとも、実は余っているのでしょうか?
現状は勿論全然足りません。しかし、現状を徹底的に洗い出し、総務省が強力なリーダーシップを発揮してその整理整頓をやれば、相当余ってくる筈です。
そして、この余ったものを、各種の携帯端末向けのサービスの飛躍的向上の為に使えば、「まだ一寸足りないが、まあまあかなァ」という程度にはなるでしょう。こういう状態になれば、固定環境における光通信網の拡充と相まって、日本は間違いなく世界有数の情報通信大国になれます。逆に今一歩を踏み込まなければ、日本は確実に遅れをとることになると思います。
周波数問題については、最早抽象論を闘わしている時期ではありません。 また、既得権者との個々の交渉で一つ一つ解決していこうというのでは、百年河清を待つことになってしまうでしょう。
先ずは徹底的な調査で現状を白日の下にさらした上で、現状の効率性を一つ一つ検証してランクをつけた上、合理化案を出し、その上で、国家的な観点からのグランドデザインを描くべきです。2011年7月のアナログ停波の約束期限まで3年を切った今こそ、この為の議論が開始されるべきです。
現状を変えようとすれば、必ず抵抗が出ます。誰もが、「これは絶対に必要で、代替手段はない」と言い張るでしょう。
それでは、仮に今電波を使っている人達の全てに対して、「携帯通信事業者が支払っているのと同じだけの電波料を科すことになるかもしれないが、それでもよいか」ときいてみてはどうでしょうか? 全ての人が「とんでもない」と顔色を変え、「その仕事が如何に国民の生活にとって必要不可欠か」を述べ立てることでしょう。
これは良い出発点だと思います。彼等の申し立てる論点を一つ一つ検証し、「本当にそうなのか?」「何故代替案では駄目なのか?」を問うていくことこそが、合理化を行うための唯一の方策だと思うからです。
私の見たところ、これをやっていけば、いろいろなところからどんどん「電波埋蔵金」が出てくると思います。
電波問題を検証する時に、避けて通れないのが「地方」の問題です。「地方」の問題は直接「政治」と絡んでくるので、抵抗も大きく、誰も手をつけたくない問題ですが、このまま放置していれば、やがては経済的に破綻してしまうことは明らか故、何時までも現状維持というわけに行かないでしょう。
私も娘が長野県の人に嫁ぎ、孫が二人長野県人として成長しているので、「地方」の問題には無関心でいられません。ここで、私は、最近一つ不思議なことを発見しました。「地方」の人達が等しく切望しているのは、常に「中央」との格差の是正なのですが、これが放送などの話になると、突然「地方の独自性」が声高に論じられるようになるということです。
多くの人達は「東京と同じTVが見られる」ということになれば大満足で、「これに各地域の独自番組が若干付け加えられていればなお良い」ということだと思うのですが、公になされている議論は相当違っています。
皮肉なことに、保守的な通信事業者や放送事業者からは警戒され嫌われているインターネットの方が、地方の人達にはずっと優しいのです。インターネットの世界は、本質的に場所を(国さえもを)意識させない世界ですから、地方格差というものがもともとありません。問題は、ケーブルTVがあるとかないとか、光ファイバーやADSLが浸透しているとかいないとかいう「ハードの問題」だけで、ソフトやコンテンツには全く格差はないのです。
地方に住んでいる一般庶民が、地方におけるIT環境のあるべき姿について、今こそ声を上げるべきです。
電波の問題を論じる時に何故「地方の問題」が大切かというと、それが電波の有効活用に大きな影響を与えるからです。
これまでは、放送事業というものは地域的に切り分けられていて、隣接する地域の電波とその地域の電波が混信しないように、多数の周波数が複雑に入り組んで使われていました。これでは周波数がいくらあっても足りない理屈です。デジタル時代になると、状況は少しは良くなりますが、この原則が適用される限りは、基本的な問題は残ります。
ところが、衛星放送のように、地上波でも「全国的に同じ番組をどの地域でも一様に見られる」ことを原則とすれば、状況は一変し、周波数がどんどん余ってくるという状況が生まれます。
勿論、各地域で、一定量の独立放送(広告も地域限定とする)を確保することも必要でしょうが、これについては、かつての携帯電話の基地局がそうだったように、送信局をあらかじめ「六角形の蜂の巣状に」配置しておき、三通りの周波数を全国放送とは別に用意しておけば、どんな地域でも隣接地域に迷惑を与えずに、これを行うことが出来るでしょう。
異なった地域に、それぞれの送信機から全く同じ情報(番組)を流すやり方を、SFN(Single Frequency Network)と呼びます。これを実現するためには、特有の技術が必要となりますが、そのような技術は既に存在していますし、格段に難しいものであるわけではありません。
現在のように、送信局と送信局を小さな中継局で数珠繋ぎにしていくというような曲芸的なことをしていては、マルチパスが許容範囲を超えるというような問題も出てくるかもしれませんが、送信局は光ファイバーでつないでいけばよいし、通信衛星を使って日本中の送信局に一気に配信するという手もあります。
私は最近ある研究会の報告書に「SFNには技術的な問題があるので、MFN(Multi Frequency Network)の採用が望ましい」という趣旨の文章が入っているのを知り、肝をつぶすほど驚きました。こんなことが公文書に書かれるということ自体、「日本が電波の有効利用については相当な後進国である」ことを世界に対して宣言しているに等しく、とても恥ずかしいことだからです。
むしろ「SFNを導入すると効率が良くなって電波が余ってしまい、そうなると新規参入者が増えて寡占体制が保てなくなってしまうので困る」と書いてくれた方が、まだ分かりやすくてよいのにというのが、私の偽らざる心境でした。
地上波放送は、これまで、VHF帯で70MHz、UHF帯で300MHz、合計370MHzを使ってきましたが、「デジタル化によってこれを圧縮し、VHF帯は他の目的(モバイル・マルチメディア放送、デジタルラジオ、及び警察・消防用の通信)に供する一方、UHF帯からも60MHzを携帯通信などに拠出して、UHF帯240MHzだけで全てをまかなう」ということが既に決まっています。370MHzが240MHzに減るのですから、これは一見すばらしい合理化であるように見えるのですが、その間の技術的進歩に比べると、「まだまだのレベル」です。
240MHzといえば、もし全面的にSFNを採用し、ぎりぎりまで詰め込めば、ハイビジョン換算で80チャンネルがまかなえる帯域幅です。
そもそも「地上波放送」というものは、恐竜の首の部分(「マスメディア」の対象とされるべき部分)を対象とした「基本的な公共放送」で、恐竜の胴体から長い尻尾の部分は、「ケーブルTVやIPTV、更には衛星放送(日本では、BS放送で12チャンネル、CS放送では100チャンネルを超えるサービスが既に全国的に提供されている)でまかなわれるべきもの」というのが、世界の常識になっていることを考えれば、「全国規模で提供される地上波放送」は15チャンネルでも多いぐらいであり、80チャンネルといえば、まさに気の遠くなるような数字です。
そうなると、前述の「各地域での独立放送」の為に、ハイビジョン換算で2‐3チャンネル(実際にはハイビジョンは必要ないと思うので、6-9チャンネル、即ち、一地域あたり2-3チャンネルになる)程度を別途割り当てた上、現在の携帯端末用のワンセグ放送を100チャンネル程度にまで拡大、更に、「ワンセグの延長線上にあるマルチメディア放送」とも言えるISDB-Tmmと呼ばれる方式もここに導入してみても、まだまだ1/3も使えきれない計算になります。
もう一つの大きな「電波埋蔵金」の可能性は、現在、「FPU」と、スタジオなどで使う「アナログのラジオマイク」で使われている「770MHz-806MHz」の36MHzに及ぶ帯域です。
「FPU」とは、TV各社が取材映像の伝送用に使っているアナログ回線のことですが、この目的の為には、他の帯域で膨大な量の周波数が別途割り当てられており、全て通信衛星を使って処理されております。(周波数割り当ては、5GHzから13GHzに及ぶ帯域で、B、C、D、E、Fと名付けられたバンドが、それぞれの帯域幅で100-300MHz程度あり、合計すれば、総帯域幅は1,000MHzを超えます。)
従って、TV各社が、取材映像の伝送の為に実際にこの770-806MHzの帯域を使うのは、衛星が使いにくいとされている「マラソン中継などの例外的なケース」に限られているようです。
現実に、今年の5月を例にとって記録を調べてみると、「首都圏でこれが使われたのは1ヶ月にわずか9回だけ」という記録が残っていました。
電波が「希少な資源」であるということには、どうも誰も異存はないようなので、もしそうであるなら、「埋蔵金」探しは、国家レベルで本気でやらなければなりません。
もし総務省がすぐにはやってくれないとしたら、日本には「請願」という制度があるので、国民の誰でもが、この権利を行使して、総務省に具体的な調査を「請願」することが出来ます。
先ずは「埋蔵金」を洗い出し、それからじっくりとその有効利用を考えるべきです。
何と言っても、電波は、国民一人一人の、大事な、大事な資産なのですから・・・。
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