matsumoto.png

松本徹三(Tetsuzo MaTsumoto)-3.9Gと4G

先のブログで、3Gとか4Gとか言う言葉の定義が曖昧だというような話をさせていただきましたが、最近、これを少しだけはっきりさせるような進展がありましたので、ご報告します。

日本では、例によって世界に先駆けて、3.5GHz帯を使った4Gについての議論が盛り上がり始めており、これを議論する為の日中韓の官民の関係者の集まりも、最近東京で持たれました。

私も一応キーノートスピーカーの一人として参加したものの、技術問題についてはあまりアイデアがないので、例によって、「ユーザーの視点からものを考えるべき」といった話でお茶を濁すしかありませんでしたが、ドコモさんは、例によって、相当先進的な話を具体的にしておられました。

その後のワークショップなどの報告を聞いていると、どうも、4Gを「LTE-Advanced」、即ち、「LTEの発展系」と位置づけ、「LTEとの後方互換性を確保しつつ、数MHzの狭帯域から100MHzの広帯域までをサポートし、LTE以上のピークレートと周波数効率を実現すること」をターゲットとする方向で、議論が進んでいるようです。

先のブログでも書きましたように、LTE自体は、その名の示すとおり、「3Gの長期発展型(Long Term Evolution)」と位置づけられ、3GPPのRelease 8 として標準化されようとしているものですから、明らかに「3.9G」です。しかし、「3.9G イコール LTE」 かと言われれば、必ずしもそうではありません。

「3.9G」のカテゴリーにはいるものとしては、「10MHz程度の帯域幅なら、データスループットはLTEとほぼ同等」というシュミレーション結果が出ている「HSPA+ (Release 7 )」もありますし、これを Multi-carrier 化したものを 、Relase 8 の追加、または Relase 9 として標準化しようかという動きもあります。

国連の下部機構であるITU-Rでは、4Gに対応する技術には「IMT-Advanced」という名前がつけられていますが、日本では、前述の通り、これを「LTE advanced」と呼び替える動きがあり、これは少し気になるところです。

日本では、伝統的に、NTT(或いはNTTドコモ)の提案が全ての議論をリードする傾向があり、それ故に、早い時点から選択肢の幅を狭めてしまう傾向がありますが、「世界の動きと日本の動きがほぼ均等に見えている」とひそかに自負している私の目から見ると、このような動きは、やはり少し気になるのです。

(私は、一昨年まで米国のクアルコムに10年近く勤め、今でも技術者達とはビジネスを離れた親交がありますし、現在はGSMAのボードメンバーや戦略コミッティーメンバーを勤めていますから、自然と米国や欧州の観点からものを考える癖がついており、嫌でも「日本の特異性が」目に付いて、気になってしまうのです。)

さて、LTEですが、LTEにもWiMAX同様の問題点が常に付き纏っています。それはセルエッジの問題とQoSの問題です。一般に、ピークデータレートや平均データスループットを考えると、このようなOFDM系のテクノロジーには、MIMOとの親和性を筆頭に、多くのメリットがあるのですが、「全ての面で優れている」という訳にはなかなかいかず、実際の市場性から考えると、問題が結構山積しているのが実情だと思います。

セルエッジの問題は、そのまま、「ビル内への浸透度」の問題にもつながります。QoSの問題は、そのまま、「VoIPへの対応」の問題につながります。期待される将来の高速通信網が、ビル内でパソコンを使っている人達をサポートできなかったり、VoIP電話をサポートできなったりするわけにはいきませんから、今後のLTEの検討は、むしろこのあたりを眼目にして進めるべきだと思います。

一方、「3.9G」についても最近重要な進展がありました。既に新聞紙上でも報じられているように、総務省は、これまで携帯3社が2G(PDC)用に使っていた1.5 GHz帯の今後の利用方法につき、3.9Gを対象に検討する方向を示唆しています。

総務省の念頭にあるのは、先ずはLTEであり、「Super3G」と呼ばれているドコモバージョンのLTEについての検討(干渉問題など)が先ずは議論の対象になると思いますが、その流れの中で、当然「別の3.9G技術」、即ち、「HSPA+」や「その延長線上にあるシステム」も当然議論されるものと理解しています。

我々が、現時点で、同じ3.9Gであっても、むしろ「HSPA+」の方により多くの興味を持っている理由は、既存システムとの後方互換性があることと、LTEに比して技術が枯れており、より早く安定したサービスを立ち上げることが可能であろうと思われるからです。

私の会社、ソフトバンクモバイルは、800MHzの「黄金周波数(Golden Spectrum)」を持っているドコモさんやKDDIさんと異なり、現在PDCで運用している1.5GHzを一旦返還してしまうと、2GHzしか持っていないことになってしまうので、「周波数の逼迫」が競合他社に比して一層厳しいという事情があります。また、自ら「世界有数の技術会社会社」という別の顔を持っているドコモさんと異なり、世界の殆どの通信事業会社と同様、技術開発については基本的に世界中の機器メーカーに頼る立場です。

この立場から考えると、「先ずは「HSPA」、又は「HSPA+」からはじめ、時機を見て、もし必要があれば、これをLTEにアップグレードしていく」というのが、唯一の現実的な方策であると考えられます。幸いにして、種々のシステムベンダーにあたったところ、殆どのところが、HSPAとLTEをソフトウェアの切り替えだけで使い分けられるように機器の設計を行っていることがわかり、大いに安心しているところです。

私の会社の中にも、「総務省は世界に先駆けて『日の丸LTE』を推進したいと考えており、その方向に各通信事業者の足並みをそろえさせたいのではないか?」と危惧する人たちもいるのですが、私は、「そんなことはあり得ない。通信事業者の使命は、何よりも、ユーザーに『高度で安定したサービスを安価に供給』することであり、その為に自らがベストと信じる技術を採用せねばならないし、総務省がそれを妨げることはあり得ない。また、日本を世界の孤児にしてしまったPDCの失敗は、総務省としても二度と繰り返したくはないはず」と、社内では言い切っていますし、この点については、全く心配はしていません。

最後に、「KDDIは3.9Gについてどうするであろうか」というのが、多くの人達の興味だと思いますが、勿論、これは、私などがあれこれ推測すべきことではありません。一部の報道では、3GPP2の3.9G標準であるUMBではなく、3GPP標準のLTEを採用するのではないかといわれていますが、それならそれで、頷けることです。

米国のVerizonが早々とLTEを採用すると発表したのですから、KDDIさんとしても、「UMBを採用すると世界の孤児になってしまうかもしれない」と危惧されたのでしょう。いずれにしても、端末チップはデュアルモード、トリプルモードが主流になるでしょうし、バックボーンネットワークは、先のブログでもご紹介したように、基本的に全てが同じようなものになるでしょうから、どちらに転んでも、あまり大きな違いはないと思います。

 

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 3.9Gと4G

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.sbirobo.com/mt/mt-tb.cgi/912

トラックバックは承認制とさせていただいております

コメント(4)

Hawaiian Style :

松本さんこんにちわ。

>KDDIさんとしても、「UMBを採用すると世界の孤児になってしまうかもしれない」、端末チップはデュアルモード、トリプルモードが主流になるでしょうし、バックボーンネットワークは、基本的に全てが同じようなものになるから、どちらに転んでも、あまり大きな違いはない

本当にそうでしょうか。松本さんご指摘の通り「世界有数の技術会社」である金満NTTドコモ、そして孫さん率いるソフトバンクモバイルと同じプラットフォームでKDDIは戦ってゆけるか、かなり疑問です。まあ逆に言えば、ソフトバンクモバイルにとってはHSPA+でシェア拡大のチャンスが広がるということになりますかね。個人的にはKDDIはUMBに行き、2002年から続いたau黄金時代の再現を期待していたりします。

TetsuzoMatsumoto Author Profile Page:

Hawaiian Styleさんへ、

そうですね。私がもしまだクアルコムに勤めていたら、同じように説得を試みたかもしれません。(聞いてもらえるかどうかは別としても・・・。)世界の孤児になるかどうかの問題についても、中国では、チャイナテレコムが、450MHzシステムとの親和性も考えて、CDMA2000路線に行きそうな様子なので、少し状況は変わってきているようです。

Hawaiian Style :

松本さんこんにちわ。

レスありがとうございます。

さて、LTE含め日本はせっせと機器や通信速度のハイエンド化にいそしんでますが、一方で人口はカクジツに高齢化してますよね。トレンドセッティングするのはF1層かも知れませんが、今後の消費の中核は明らかに高齢者にシフトしてゆく中で、ナントカメガのダウンロードが出来るフェリカ付きのこれが! とかいうプロダクトを作ったとして、ここから今後どれだけマーケットは拡大するのでしょうね? ゲームで言えばWiiがPS3に圧勝したように、ローエンドというか、壮年高齢者層でも取り組みやすいモノを出してゆくキャリアが逆に勝ったりして、と思ったりもしています。

TetsuzoMatsumoto Author Profile Page:

Hawaiianさんのご指摘はその通りだと思います。ユーザーニーズは確実に多極化していきますから、それぞれの客層にマッチした多種多様な端末とサービスを提供していく必要があります。技術は手段であって目的ではありません。あらゆるニーズに対して快適さと使いやすさを実現しようとすると、やはり高度なネットワークが必要となりますが、それを必要としないユーザーにコスト負担を強いるのは筋違いです。この微妙なサジ加減をするのがキャリアーの仕事ですが、国が周波数免許と引き換えに何らかの誘導をしようとすると、この判断がゆがんでしまいますから、そのようなことがない様にお願いしていくつもりです。

コメントする

このブログ記事について

このページは、TetsuzoMatsumotoが2008年4月16日 10:41に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「NGNに隠されているかもしれない「罠」」です。

次のブログ記事は「日本の技術競争力を高める方法」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

はてなブックマーク del.icio.usブックマーク Yahoo!ブックマークに登録

松本徹三のプロフィール

松本徹三
1962年 伊藤忠商事株式会社入社
1984年 伊藤忠アメリカ会社上級副社長兼エレクトロニクス部長就任
伊藤忠商事(株)東京本社通信事業部長、同マルチメディア事業部長歴任
1996年 同社退職、ジャパン・リンク設立
1998年 クアルコムジャパン(株)代表取締役社長就任
2005年 同社取締役会長、クアルコム米国本社上級副社長就任
2006年 ボーダフォン(株)(現ソフトバンクモバイル)執行役副社長 技術統括兼CSO就任