
松本徹三(Tetsuzo MaTsumoto)-報道記事の分かり難さ(続き)
報道記事の分かり難さ(続き)
前回は、主として、携帯通信に関する報道に使われる用語や数値の分かり難さについて書きましたが、今回はバックボーンネットワークの問題、特に昨今新聞紙上をにぎわしている「NGN」という言葉を中心に、私の理解を述べさせて頂きたいと思います。
「NGN」という言葉はNext Generation Networkの略で、もともと国連の下部機構であるITUが使い出した言葉ですが、その意味が示すとおり、どちらかといえば普通名詞に近いニュアンスがあります。現在は、日本が一番盛り上がっているような感があり、「NGN」という言葉自体、NTTの新サービスの代名詞のようにもなっていますが、早期にNGN構想を考えたBritish Telecomは、自社のサービスには「21CN」(21st Century Network)という名前をつけました。
「NGN」という言葉は欧米ではそれ程使われておらず、特にアメリカの技術者は、この言葉を聞いても一瞬きょとんとした顔をして、それから「ああ、IMSの事ね」という人が多いようです。IMSはIP Multimedia Sub-systemの略で、後述する3GPPが決めた技術仕様の名称です。(KDDIなどが活躍している3GPP2の方では、MMDという言葉が使われています。)
ITUが通信事業に関連する国際機関であるに対し、インターネットに関連する標準化機関はIETFと呼ばれており、ここでは、ITUの基本シグナリングプロトコル標準であるSS7などにあたるものとして、SIP(Session Initiation Protocol)という標準が定められています。ところが、第三世代のモバイル通信の仕様開発を司っている3GPPが、IMSの中核として、とりわけQoS(通信品質)を保証したセッション制御のために、このSIPをそのまま使うことに決めた為、「旧来からの通信の世界」と「インターネットの世界」は、急速に合体に向かって動き出しました。更にITUは、これをNGNの制御にも活用することを決めました。
新聞報道によると、NTTも、「ひかり電話」などに必要な「品質保証を伴うセッション制御」のためにSIPを使うと発表していますから、これは3GPPのIMS仕様を使うと言っているのとほぼ同じです。IMSは3.9Gと呼ばれるLTEやドコモのSuper 3Gにおけるセッション制御技術の中核となるのは勿論、3Gや3.5Gにもすでに使われていますから、この意味で、NTTのNGNは、ドコモやソフトバンクのモバイルネットワークのバックボーンとも親和性が強いということになります。
更に言うなら、固定通信であれ、移動通信であれ、インターネットであれ、世界の全ての事業者の全てのネットワークは、既に多かれ少なかれ、これまでの回線交換網、パケット交換網に代えて、「制御されたIP」を基本としたネットワーク、即ちNGNの方向へと歩み始めているのであり、NTTが、今、何かとてつもなく新しいものが生みだそうとしているわけではないということです。
あ、ここまで書いて、何故今回、私がこんな七面倒くさい標準の話をし始めたかを思い出しました。最近政治家の先生方も出席しておられた或る会合で、業界の或る人がNTTのNGNを持ち上げて、「NGNは、"Nippon""Great""Network"の三文字の略とも読み取れる。日本発のNGNが世界に飛躍していくことを祈念して乾杯」とか何とか言っておられたのを思い出したからです。私は、その時にもさすがに眉をひそめたくなる気持だったのですが、政治家の皆様や産業界が「NTTのNGN」について誤った幻想をもたれない様に、あらためて祈っている次第です。間違っても、「国が後押ししてこれを『日本の統一標準』とし、世界に押し出していこう」などということには、なってはなりません。
NTTが、世界の動向と歩調をあわせて、且つ、いろいろな自社開発技術も取り入れて、強力なNGNを作り上げるようとしていることは、高く評価されるべきです。但し、NGNは別にNTTの専売特許であるわけではなく、タイミングの差はあっても、世界の通信事業者が当然のこととしてそれぞれに構築して行く「次世代のネットワーク」のことですから、この辺のところは勘違いがないようにしておく必要があります。
NTT流のNGNが本当に世界の規範となれるようなものであるかどうかは、それが可能とするサービスとそのコストが、世界のユーザーに受け入れられるものであるか否かにかかっています。特に気になるのはコストであり、従来から「NTTの作ったシステムは高くつきすぎて世界市場では売れない」という現実があることは、いつも心に留めておくべきと思います。
なお、せっかくの機会ですから、七面倒くさい標準の話をもう少し続けさせてください。携帯通信の世界標準のための仕様開発を進めている3GPPとIPの世界とのつながりは、実は、相当以前まで遡ります。3GPPではRelease 99(通称R99)から始まって、次々に仕様を高度化していますが、現在ドコモやソフトバンクやイーアクセスの多くの携帯端末が準拠しているHSDPAという高速データ通信技術は、Release-5(以降Rel-5)で仕様化されたものです。ところが、回線交換網のIP化は、実は、既にその一つ前のRel-4で仕様化されているのです。
高度化は更に進んでおり、Rel-6では、無線関係で、上り線の高速化(HSUPA)や同報通信(MBMS)が、ネットワーク関連でI-WLANが、それぞれ仕様化されました。Rel-7では、無線関係でMIMOを搭載したHSPA+が、ネットワーク関連で、VCC(回線交換音声とSIPでサポートされたVoIP間のハンドオーバ)が、それぞれ仕様化されました。そして、Rel-8では、モジュレーションにOFDMを使ったLTE(3.9G)が、いよいよ仕様化されようとしています。
LTEなどを収容するパケットコアネットワーク(SAE)のモビリティプロトコルは、欧州生まれの2G標準であるGPRSをベースに拡張したもの(かつてのアーキテクチャの戦いにおいてはArchitecture Aと呼ばれた)と、アメリカ生まれのIETF標準を概ねそのまま使うもの(同じくかつてはArchitecture Bと呼ばれた)が共存することになっています。前者はGSM事業者にとって好都合であるため、欧州の事業者やアメリカのAT&Tはこちらを使うでしょうし、後者はCDMA2000やWiMAXとも親和性がよいので、GSMに関係のない事業者、ドコモやKDDI、米国のVerizon Wireless等が使うでしょう。(いずれにせよ、WiFiとの親和性は、前者であっても後者であっても、共に十分確保されていますから、この点では問題はありません。)
ソフトバンクはどうするか? うーん、コスト次第ですね。
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このブログの前身の暇?人氏への反論で誤解を解こうとしていましたが
ブログに対してブログで誤解を解こうとするのはよいと思うのですが
オフラインでの誤解をここで正しても相手には届かないのではないでしょうか?
あ、でも業界の或る人氏が松本様が暇?人氏にしたようにネットで反論したらおもしろいなあ
追伸、今回フォントが変わり微妙に読みにくかったです。
NGN」という言葉自体、NTTの新サービスの代名詞のようにもなっていますが
あまり"NGN"という言葉を意識していなかった私は、「NTTの次世代ネットワークの名前」といった感覚で認識をしていました。"NGN"と言っているのはNTTだけのような気がしますが(違っていたら済みません)、なぜ他社はその言葉を使わないのでしょうか?ソフトバンクグループも、確か2010年を目処にコアネットワークのIP化を行うとの情報を目にした記憶がありますが、これも所謂"NGN"と呼ぶもの、と解釈して宜しいのでしょうか?
標準化のプロセス等、私には難しい話でスルーしてしまう形のコメントで恐縮ですが、何にしても「気づいたら日本独自仕様になってました」ということにならない事を祈りたいと思います。
最近光回線に変えて思ったんですが、日本独自仕様と言うよりNTT独自仕様になることが心配ですね。
ひかり電話の加入を勧める電話をイヤというほど受けたのですが、専用ルーターを使わなければならないので、光回線導入後にルーターメーカーのダイナミックDNSサービスを受けるために家族の反対を押し切ってひかり電話の勧誘を拒絶しました。
フレッツネクストのサービスが開始されましたが結局オフィシャルのルーターを使わなければならないようなので、サードパーティーからも製品が出るようになってから検討したいと思います。
トラフィックコントロールは重要な話題だと思います。ヘビーユーザーの速度制限などの問題も含めて今後の重要な議題となるはずです。それにはサービスの提供の仕方も含まれるでしょうね。
NGNは勿論NTTの専売特許ではありません。KDDIもソフトバンクも当然同様のシステムに移行していきます。一般にNTTがやるものは、我々の眼から見ると、要らぬところに金がかかりすぎているところが多く、「信頼性」という言葉を錦の御旗にして。機器類の選択肢を過度に狭めてしまう傾向があるように思えますから、我々もネットワークのNGN化を急いで、ユーザーの選択肢を広げなければならないと思っているのですが、現状では、NTTから卸してもらう光回線のコストが高すぎ、ビジネスモデルが成立せず、頭を抱えているところです。